お塩は何から作られているでしょう?おなじみの海水、岩塩のほか、日本では全国で、温泉から作られる「温泉塩」が生産されています。あまりお店では見かけない温泉塩の味や作り方、おすすめの温泉塩をご紹介します。
温泉塩は、海水塩とはまた違うまろやかな味わいが魅力です。
3000年以上の歴史!温泉を口にする元祖「飲泉(いんせん)」
温泉といえば何をイメージしますか?お風呂はもちろん、足湯や温泉卵も楽しみですが、温泉を飲む「飲泉(いんせん)」もあります。
日本では持統天皇の時代(西暦600年代)に飲泉の記録がありますが、その後は江戸時代中期ごろまで、ほとんど記録は残っていません。一部地域で続けられてきたと思われる飲泉の習慣は、明治時代になってベルツ博士により広められ、温泉療法の一環として徐々に浸透していきました。
いっぽうヨーロッパではスイスのサンモリッツから、飲泉していたことを示す約3000年前の遺物が発掘されているそうです。15-16世紀ごろには、入浴よりもむしろ飲泉がメジャーになり、さまざまな疾患の治療法として生活に取り入れられていました。
日本の温泉はよく塩分を含んでいるので、しょっぱく感じられることが多いですね。
手軽に温泉成分を口にできる「温泉塩」
飲泉は温泉水をそのまま飲むことで、温泉成分を身体の中に取り込むのが目的ですが、もっと手軽に温泉成分をどこでも口にできるのが「温泉塩」です。一般のスーパーではなかなかお目にかかりませんが、じつは日本各地の温泉で、小規模ながらも昔から温泉水でお塩が作られています。
温泉塩を生産する地域は、古い歴史を持つ福島県の大塩裏磐梯温泉や、長野県下伊那郡の鹿塩温泉等が知られています。いずれも手間暇かけて独自の温泉塩を生産されているなか、今回ご紹介するのは独自の個性を持つ温泉地として知られる九州、熊本県の芦北町にある「岬の御塩」です。
山あいで塩を確保するために昔塩づくりをはじめた、という話は聞くのですが、目の前が海の高台で作る温泉塩はとても珍しい!
熊本県の「美人の湯」で作る「岬の御塩」
碧い海と空が広がり、天草群島をのぞむ絶景の御立岬には温泉があり、「美人の湯」として親しまれています。この「岬の御塩」の面白いところは、目の前にある美しい海の水ではなく、御立岬の地下1000mから汲み上げる天然温泉で塩を作っているところです。
汲み上げられた温泉水はビニールハウスの中で天日干しを繰り返し、約3か月かけて製品に仕上げるそうです。
他の生産地では、薪やガスをつかって丸一日煮詰めるなどエネルギー量も大きいですが、「岬の御塩」は太陽の力だけで仕上げているため、CO2排出量が少なく、環境にも配慮した塩になっています。
「岬の御塩」の結晶は基本的に小さな立方体。溶けやすく、プレミアム感のある塩の中では使いやすいほうだと思います。原料になる温泉の泉質は塩化ナトリウムを含むナトリウム・カルシウムー塩化物泉。大昔の海水だそうで、ミネラル分のほか、カルシウムを豊富に含んでいます。
環境庁の「温泉療法のイ・ロ・ハ」によると、塩化物泉は飲泉すると、胃腸の働きをよくしてくれるそうです。ただし、ナトリウムも含むため、体質、体調によっては配慮が必要です。温泉塩を実際に料理に使用する際にはふつう少量なので、飲泉のように何かしらの効果を期待するのは難しいところ。そのかわり、旅先での飲泉のような、独特の味わいを手軽にお塩で味わうことができます。
「岬の塩」の味は?
「岬の塩」の結晶はこんなかんじ。透明感のある若干白い塩の粒です。大きさにはばらつきがあります。
「岬の御塩」の塩味はかなり柔らか。まろみのある塩味とミネラル味がありながら、すっきりとした後味でさわやかです。
精製していない塩はともすれば雑味が勝って、クセが残ることもよくありますが、こちらの塩は
ミネラル分、カルシウムが豊富でバランスもよく、塩味に奥行きを与えてくれています。
どんなお料理に合う?
やさしくまろやか、すっきりとした後味なので、淡白なお料理におすすめです。
お出汁の調味やシンプルなおむすび、焼き魚、お豆腐、てんぷらなどに使うと、名わき役として素材のうまみを引き出してくれます。また豆腐系のお料理、スイカやトマトなどの生鮮にもよく合います。
ちょっと変わったところでは、ホイップクリームを使ったお菓子にも、塩スイーツとして楽しめます。
贅沢な使い方ですが、「岬の御塩」で漬け込む梅干しもおいしそうです。
素材から引き出された旨味と塩味のハーモニーは抜群!思い出してはまた食べたくなるお塩です。
同じ「岬の御塩」なのに見た目が違うのはなぜ?
「岬の御塩」は太陽の下、3か月かけて塩の結晶を作っています。もちろん生産者の皆さんは日々改善をされていると思うのですが、人工的な加工ではなく、自然の力を借りて長い期間をかけて作る以上、見た目に多少の誤差がどうしても出てきます。時には包装によって、結晶塩の透明度が違うことも。
ある意味、品質に多少のばらつきがあることこそが、手作りの少量生産である貴重な温泉水の証でもあります。大手スーパーなどの流通に乗らない少量生産の手作り塩だからこそ、商品ごとの違いも味わいとして楽しみたいものです。
どこで買える?
グルメ系サイトや熊本名産品ショップサイトなどの一部の通販で手に入りますが、地元である熊本県の葦北郡芦北町の、ふるさと納税でも手に入るようです。ふるさと納税で送られてくると、芦北町に親しみも感じられる気がして、ちょっとうれしいですね。ふるさと納税では温泉塩そのもののほか、塩せんべいも人気があるようです。
「岬の御塩」を作っている御立岬について
手作りで作られている「岬の御塩」は、熊本県芦北町にある御立岬の施設で作られています。
芦北町は万葉集にある長田王が和歌に詠んだ場所で、素晴らしい眺めの国史跡、佐敷城跡などもある大変歴史のある町です。古くから交通の要衝で、いまは緑と海に囲まれた美しい土地に開けているのが、製塩施設のある御立岬です。
御立岬は岬自体が総合リゾート施設のようになっており、海水浴、キャンプ、温泉など、多彩なアクティビティが楽しめるそうです。「岬の御塩」を作っている「塩むすび館」は四方を青い海に囲まれた絶景の場所。また、御立岬の海水浴場は熊本県の調査で最も水質の良いAAを獲得しています(令和5年度)。余分な建物もなく広々とした公園で、周りを緑に囲まれた環境は夜空も楽しめそう。リゾートとしてもとても魅力的な場所です。
芦北町内には海岸沿いに「肥薩おれんじ鉄道」が走っています。最寄りの「たのうら御立岬公園駅」からは徒歩一択だそうですが、オーシャンビューの列車に乗って、リゾートに行くのも盛り上がりそうです。
「岬の御塩」は淡白なお料理にもぴったり
「岬の御塩」は、口の中にすっきりとした甘みが残る心地よさが魅力の温泉塩です。高価格帯のお塩は個性が勝つことが多いですが、しっかりと個性がありつつ淡い味わいにも使えるお塩は使い勝手もよくおすすめです。
何より、生産者さんが真摯に塩づくりに取り組んでおられる姿には、心から応援したくなります。
海水から作ったお塩とはまた違う魅力とミネラルがつまった「岬の御塩」は、「シンプルイズベスト」な調味料といえます。
温泉塩選びの参考になれば幸いです。
最後までごらんいただき、ありがとうございました。